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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)134号 決定

本籍

北海道中川郡幕別町字相川五九九番地

住居

釧路市材木町一〇七番地

無職

稲上美明

大正五年一月二日生

右の者に対する業務上横領、横領被告事件について昭和二九年一二月二三日札幌高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鎌田勇五郎の上告趣意第一点について

所論は原審において控訴趣意として主張されず、原審の判断を受けていないところであつて適法な上告理由とならない。

同第二点について

所論は刑訴四〇五条の上告理由に当らないのみならず所論控訴趣意書の撤回について、刑事訴訟法は何等規定するところはないけれども、これを許さない趣旨ではなく、適法にその撤回をすることができることは、当裁判所昭和二九年(あ)四一八七号三〇年四月一五日第二小法廷決定、及び昭和二六年(あ)三一三〇号同二七年一月一〇日第一小法廷判決(刑事判例集六巻一号六九頁)により明かである。これを本件について考えるに、原判決は被告人提出の控訴趣意書の要旨を記載せずこれに対する判断を示していないこと及び右控訴趣意書には、自首の事実の主張が記載されていることは所論のとおりである。しかし記録によれば、被告人は原審第一回公判期日に出頭しており、原審弁護人は被告人の面前で被告人の控訴趣意書は陳述しない旨述べたことが認められ、しかも被告人はこれに対して異議その他反対の意思を表明した形跡は認められない。のみならず所論自首の事実は訴訟記録及び第一審で取調べた証拠に現われている事実とは認められないのであつて、この部分を除くと被告人の控訴趣意書は実質的にも弁護人のそれと同趣旨に帰する。従つて原審弁護人の被告人の控訴趣意書は陳述しない旨の意思表示によつて、該控訴趣意書は適法に撤回されたものと認めるのが相当であつて、これに対する判断をしなかつた原判決は何等違法ではない。

同第三点について

所論は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても本件につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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